野州さんの歌から5首

(Wed)

Posted in 題詠blog2011鑑賞

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題詠blog2011を走り終えた皆さまの歌を鑑賞させていただきます。今回は、野州さんの歌から5首を選ばせていただきました。

042:至
きみからの返事の手紙待っていたこれより夏に至る夕ぐれ


時間のある一点を境にして、見ている風景ががらりと変わってしまうことがある。もちろん季節が一瞬にして移り変わったわけではなく、あくまでも個人的で内面的な変化によるものだ。
この歌も、そういった瞬間を詠んだのではないかと思う。「待っていた」とあるのでもしかしたら手紙は受け取れていないのかもしれないが、ここは返事が届いた瞬間から夏がはじまった、その最初の夕ぐれであるとしたい。待ちわびていた返信を手にして眺める風景は瑞々しく、凛と澄んでいるのだろう。端正な歌である。


080:結婚
北方の町より届きし結婚の通知は歯痛堪えつつ読む


北の町から便りを通して届く幻の寒さと、貫くような現実の歯の痛みが呼応する。送り主がどのような関係性の人物なのかは想像をすることしかできないが、たとえその通知を読んで片方の頬が歪んでいたとしても、それは本人の意図するところではないのだ。それは恐らく、ただの歯の痛みに過ぎないのだから。


091:債
寝る前のドリップ珈琲飲みながらアマゾンサイトに負債をつくる


夜の珈琲は眠気覚ましに飲むものと相場が決まっているはずだが、いったい、眠りたいのか眠りたくないのか。あまりに眠さが勝っていたり普段から体がカフェインに慣れていたりすると一杯や二杯の珈琲ではどうにもならないことがあるが、この場合も当人にとっては蜂蜜ミルクやハーブティーのような感覚なのだろうか。
そしてAmazonでいま本やDVDを購入したところで、もちろんこの夜に届くものではない。知りつつも、それでもなお目を爛々と輝かせながら「カートに入れる」ボタンを押してしまうのだろう。矛盾をいくつも抱えつつ、更けてゆく夜が描かれている。


094:裂
梅花の盛りの下を手をつなぎ歩めばダウンジャケットの鉤裂き


春先といえどもまだまだ寒い梅の季節を、恋人と歩む。ひと冬のあいだ着倒したダウンジャケットにできていた鉤裂きというよりは、ふたりで歩いているあいだにできてしまった鉤裂きと見るべきか。もしかしたら、手をつないでいなければ鉤裂きの原因を避けることができたのかもしれない。が、手を離すのではなく、ジャケットを犠牲にする方を選んだ。ふたりが歩いたあとには、ジャケットからこぼれた羽毛が花びらのようにひらりひらりと落ちているのかもしれない。


099:惑
眩しくて朝のひかりを避けながら惑う四十肩に頬寄す


100首を通して読んで、この作者の持ち味は「適度な抜け感」なのだろうと感じた。パズルのピースを嵌めこむように歌を作るのではなく、真剣さは保ちつつもどこかひと息つけるようなスペースを一首の中に用意しているのだ。それは結婚の通知を受け取るときの歯痛であったり、デート中の上着の鉤裂きであったりする。それが妙なおかしみを誘うのだが同時にペーソスをも漂わせ、結果的に抒情を醸し出すことに成功しているのだ。
この歌でのポイントはもちろん「四十肩」である。もともとは疾患の名称であるが、ここではあたかも身体の部位として使われている。夜から朝のあいだに、四十を過ぎた大の大人が戸惑うような事態が起こったのだ。そんな相手の肩に頬を寄せる。不測の事態とその結果のように見えながら、どこか穏やかな空気が流れる後朝であるようだ。

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